どれだけ丈夫に作られているマンションであったとしても、日光や風雨などの影響によって経年劣化が進行することは避けられません。このため、定期的に修繕工事が必要になります。
修繕工事を適切に行えば、住民の生活の快適性・安全性を確保するだけではなく、建物の資産価値も維持することが可能です。このような理由から、きちんと修繕計画を立てて、その計画に則りマンションの修繕工事を行わなければなりません。
マンション大規模修繕工事、長期修繕計画、セカンドオピニオンに関するご相談はこちらまでお問い合わせ下さい。
マンションの修繕とは?
そもそもマンションの修繕とはどのような目的で行われるのでしょうか?先述にもありますが、建物の経年劣化した部位を補修し、新築当時の状況に直すことが修繕の目的です。
基本的に、マンションは建築基準法に則って建てられているため、耐震性・防水性などが新築当時から問題となることは少ないです。しかし、雨風や日光などによって外壁などは劣化していきます。
多少の劣化であれば問題はありませんが、外壁が剥がれたり、建物の根幹に関わる部分が損傷してしまうと住民や周囲へ危険を及ぼす可能性もあります。そのような事態が起こらないために、マンションの修繕は欠かせない存在です。
修繕・改修の違いは?
ちなみに、修繕とよく似た言葉に「改修」というものがあります。この2つの違いはご存知でしょうか。どちらもよく使う言葉ではありますが、実は指している工事内容が異なります。こちらの項で、修繕・改修それぞれの意味を確認しましょう。
修繕の意味
修繕は、ここまでも述べてきたように損傷している部位を新築当時の状態にまで直す工事を指します。工事の規模により、小規模・中規模・大規模工事などと呼びわけがなされ、大規模工事は12〜15年に一度のスパンで行われます。
改修の意味
一方で改修とは、マンション元来の機能にとどまらず建物の機能をアップグレードさせる工事を指します。
例えば、従来はなかったエレベーターや自動ドアの設置などは改修工事と呼ばれます。マンションは一度建てられれば部分的に補修を繰り返しながら、数十年は使われるものです。
このため、その時々で求められる機能は変わり、「高齢の住居者が増えてきたからバリアフリー機能を設置しよう」「女性の住居者が多いから防犯機能を強化しよう」などと、機能を向上させることもあります。
こういった新築当時にはなかった機能を新たに付け加えることを改修工事と呼びます。
マンション補修で重要な「大規模修繕工事」
マンションの住民が快適に過ごし、建物自体の資産価値を維持するために必要なのが大規模修繕工事です。当然、小規模・中規模でその時々に応じて補修を行うことも大切ですが、建物の根幹から調査を行い、大掛かりに修理をすることで、安心して暮らすことができる状態が維持できるのです。
そこで本項では「大規模修繕工事とは何なのか?」という基本的なところから、費用・期間・工事の実施周期や詳細な流れを解説します。
大規模修繕工事とは?
大規模修繕工事とは、長期修繕計画に基づき、外壁補修や屋上防水工事、鉄部塗装工事などまとまった補修を行う大規模な工事を指します。
「大規模」というだけあり、期間や費用も嵩みます。そのために、マンションの住民は修繕積立金と呼ばれるお金を月々計画的に積み立てていきます。
ここから具体的に大規模修繕工事の中身を見ていきましょう。
費用・期間・周期
ここでは、大規模修繕工事の「費用・期間・周期」について解説します。
費用
費用については、マンションの規模によって異なります。ここでは「戸あたり」の費用を紹介します。
大規模修繕工事の回数 | 戸あたりの修繕費用 | |||
---|---|---|---|---|
下位25% | 中央値 | 上位25% | 平均値 | |
1回目 (n=367) | 73.5 万円/戸 | 98.7 万円/戸 | 117.9 万円/戸 | 100.0 万円/戸 |
2回目 (n=201) | 76.2 万円/戸 | 95.6 万円/戸 | 119.8 万円/戸 | 97.9 万円/戸 |
3回目以上 (n=126) | 55.1 万円/戸 | 77.3 万円/戸 | 105.7 万円/戸 | 80.9 万円/戸 |
(国土交通省『マンション大規模修繕工事に関する実態調査』を参照)
中央値で見ると、1回目・2回目の工事が100万円弱かかっており、3回目になると77万円にまで下がっていることがわかります。
ご自身のマンションの戸数が分かれば、ある程度の大規模修繕工事にかかる費用が計算できます。
期間
マンションの大規模修繕工事にかかる期間ですが、1年半〜2年半程度と言われています。とは言え、着工から竣工に3年がかかるというわけではなく、計画・調査も含めた期間を指します。
- 計画期間:1〜2年
- 着工〜竣工:3ヶ月〜6ヶ月
周期
大規模修繕工事が実施される周期は一般的に12〜15年と言われています。これは、国土交通省が発表した「長期修繕計画作成ガイドライン(令和3年9月改訂)」が根拠となっています。
大規模修繕工事の主な内容
着工から竣工まで最大半年もかかる大規模修繕工事ですが、具体的にどのようなことが行われているのでしょうか?ここでは簡単に大規模修繕工事の内容を紹介します。
1. 修繕委員会の発足
大規模修繕工事を進める上で、修繕委員会というものを立ち上げます。この委員会のメンバーは管理組合から選定されます。
ただし、マンションによっては理事会が大規模修繕工事を主導する場合もあります。しかし理事会はすでに管理組合の運営業務を担っているので、負担が重くなりがちです。管理組合の実情によって最適な方法を探しましょう。
2. 発注方式の決定
次に大規模修繕工事の発注方式を決めていきます。発注方式には以下のようなものがあります。
- 責任施工方式:計画から竣工までを1つの業者が進める
- 設計監理方式:計画・作業を別業者に分担して工事を進める
- コンストラクション・マネジメント方式:CMR(コンストラクション・マネージャー)が、複数業者をまとめて工事を進める
それぞれにメリット・デメリットはありますが、コストや工事の質の担保などを鑑みた上で弊社では「設計監理方式」をおすすめしています。
3. 劣化診断の実施
次にマンションの劣化診断を行います。この診断結果によって大規模修繕工事が行われる範囲や工法、修繕箇所の優先順位などが決定されていきます。
また、劣化診断により「本当に大規模修繕工事が必要なのかどうか」についても調べてもらいましょう。修繕工事ありきで調査が進められると、まだ必要がない状態で建物の補修を行うことになりかねません。
長期修繕計画によってある程度の実施時期は決められていますが、マンションの現状に応じて「行うか否か」を決定しましょう。
ちなみに、前述で設計監理方式をおすすめした理由の1つはここにあります。責任施工方式で進めてしまうと、工事業者が補修を行う前提で調査を進める傾向にあるからです。第三者であるコンサルティング会社が調査することで、建物の現状に最適な判断をしてくれます。
4. 修繕計画・修繕予算の検討
劣化診断を受けて大規模修繕工事が必要だと判断された場合、次に修繕計画や予算の検討に入ります。診断によって修繕の優先順位が分かりますから、それに従い計画を立てることができるでしょう。
5. 施工業者の選定
次に施工業者を決定していきます。通常は複数の業者から見積もりを出してもらい、比較することになるでしょう。
選定の簡単な流れは以下の通りです。
- 公募で施工業者を募る。インターネット・専門誌・マンション掲示板など、各場所で実施が可能。
- 見積書をもとに選定。この時に見積もり額以外にも業者の経歴や実績も確認し、安心して任せられる業者を3社程度絞る。
- 絞った業者からヒアリングを行う。工事への姿勢や修繕委員会との相性、アフターサービスなど詳細をできる限り確認し、決定。
6. 定期総会(臨時総会)の開催
選定した業者と定期総会(臨時総会)を開催します。この総会の目的は、管理組合に対してどのような工事を行うのか、期間や施工業者などについて詳しく伝えることです。総会で管理組合員から承認を得られたら、大規模修繕工事を正式に発注します。
7. 契約
大規模修繕工事の計画について管理組合から承認を得ることができたら、選定した業者と契約を締結します。
8. 工事説明会の開催
着工1〜3ヶ月前になったら、管理組合向けに工事内容に関する説明会を開催します。この説明会は、工事期間における注意点や依頼ごと、また工事内容のあらましについて伝えることが目的です。
特に重要なのが、工事期間における安全上の注意点を伝えることです。普段の生活に対してどのような影響があるのかを説明することで、着工後のトラブルを極力まで減らすことができます。
また、このタイミングで管理組合からの質問や意見を受け、解消しておきましょう。ここで上がった意見や不安の声については修繕工事に生かし、疑問点はその場で答えるか、後日紙面などで回答します。このような運用によって、管理組合が不満を抱くことを避けることが可能です。
9. 着工
計画に従い、大規模修繕工事を実施します。ただし、天候などを含めて計画は外部要因に左右されることが多いです。予定通りに工事が進んでいるのかについては、業者と密に連携して確認しましょう。
また、工事の進捗などに関する情報は修繕委員会や理事会だけにとどめるのではなく、管理組合にも共有することが大切です。特に生活に影響を与える工事は、住民へのストレスになり得ます。どれくらいの予定で終わるのか、どのような状態なのかを伝えることで、気持ちよく協力してもらうこともできるでしょう。
10. 竣工検査の実施
大規模修繕工事の完了後、竣工検査というものが行われます。修繕委員会・施工業者、また設計監理方式の場合にはコンサルタント会社などのメンバーで工事の仕上がりを確認していきましょう。
その中で不備や計画との差異などを発見した場合には、該当箇所のみ再度修繕工事が行われます。
11. 引き渡し
竣工検査が問題なく終わったら、マンションの足場を解体します。足場解体も完了し、工事備品や残った資材などが撤去されたら引き渡しです。
修繕委員会は大規模修繕工事の振り返りを行い、次回の工事やマンションのメンテナンスのために記録しておきましょう。
マンションの修繕で起こりうるトラブル
マンションの修繕を行うのであれば、起こりうるトラブルも想定しておく必要があります。事前に予防・対策手段を講じることで、修繕をつつがなく終えることができるからです。
本記事の最後に、マンション修繕にまつわるトラブルと対策を解説します。
計画段階
まずはマンション修繕の計画段階に起こりうるトラブルを紹介します。
管理組合で合意形成ができない
修繕工事は管理組合の合意のもとに進める必要がありますが、合意形成に苦労をしているというマンションもあります。修繕は管理組合の修繕積立金を財源としているため、やはり居住者の多くの関心ごとだからです。
管理組合の合意形成を実現させる上で重要なのは、修繕の内容について公平性・透明性を保つことです。こまめに理事会内の決定を共有することで、管理組合側からの理解を得ましょう。
修繕積立金が足りない
劣化診断の結果によっては、修繕積立金だけではカバーしきれない見積もり額になる可能性もあります。このような場合、管理組合から臨時徴収金を回収しなければならず、理解を得るのにも時間がかかります。
修繕積立金が不足している場合には、以下のような手段で対応しましょう。
- 工事内容の見直し
- 優先順位の低い工事箇所は次回の工事で修理する
- 工事を先延ばしにして修繕積立金の充足を待つ
- 融資を受ける
- 補助金や助成金制度に応募する
工事中
次に修繕工事中のトラブルと対策を紹介します。
騒音・悪臭・空き巣・盗難
修繕工事の内容や規模によっては、騒音トラブルや悪臭などが発生するでしょう。騒音や悪臭が発生する期間の前にお知らせを居住者・近隣に出すなどで、不満を最低限にすることができます。
また、マンションの周りに足場を組んだり、建物内への出入りが激しくなったりすることで、空き巣・盗難が発生しやすくなります。居住者に対して自防犯対策の徹底を呼びかけるのにあわせ、施工業者の方でも防犯対策に協力してもらえるように依頼しましょう。
計画にはなかった工事の追加
実際に工事を進める中で、計画にはなかった修繕が必要となる場合もあります。工事内容の追加があると、工事の期間や費用も増えることになるでしょう。
修繕積立金の範囲を超えたとしても、基本的にやるべきことは先述の通りです。
- 工事内容の見直し
- 優先順位の低い工事箇所は次回の工事で修理する
- 工事を先延ばしにして修繕積立金の充足を待つ
- 融資を受ける
- 補助金や助成金制度に応募する
竣工後
最後に修繕工事が完了した後に生じるトラブルを説明します。
修繕の仕上がりが想像していたものと異なる
施工業者と密に打ち合わせをしても、修繕委員会側の想定と仕上がりが異なる場合もあります。
よくあるのが、外壁塗装の色の仕上がり。屋外塗装にも関わらず、色の確認は蛍光灯の下で行ってしまった等がトラブルの原因です。
こういった事態を避けるためにも試験施工などで色を確認するなど、仕上がりのイメージに食い違いがないか確認することが大切です。
不適切な施工による再修繕
また、施工が正しく行われていないというトラブルも散見されます。竣工検査で不備が見つかればまだいいですが、場合によっては次回の大規模修繕工事まで見つからないというリスクもあるのです。
不備が見つかったら、施工業者のアフターサービスなども活用して、きちんと修繕が行われるようにしましょう。
まとめ
本記事では、マンションの修繕について詳しく解説しました。特に大規模修繕工事は修繕委員会にとっても負担が大きく、時間もかかるものです。
少しでも修繕に不安や疑問がある方はご相談ください。
コメント