大規模修繕工事にかかる費用は、基本的に修繕積立金から賄われることになります。しかし、場合によっては修繕積立一時金を管理組合から集めなければならないこともあるのです。
マンションによっては「大規模修繕の財源が不足しているなら一時金を回収すればいい」と考えている修繕委員会もあるようですが、修繕積立一時金のリスクについては事前に知っておくべきでしょう。
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修繕積立一時金とは
読者の皆様の中には、大規模修繕における修繕積立一時金が一体なんなのかについて詳しく知らないという方もいらっしゃるでしょう。そこで修繕積立一時金に関する基礎的な情報をまとめました。
リスクや対策について知る前に、まずは修繕積立一時金という言葉の意味を適切に捉えましょう。
修繕積立金が不足した際に集めるお金
修繕積立一時金とは、修繕積立金が不足した際に集めるお金のことです。
その名前の通り、修繕積立金は修繕工事の費用を賄うために集めているお金ですが、場合によっては修繕工事の見積もり額が貯めてきた修繕積立金よりも大きな額になってしまうこともあります。
そういった際に不足分を臨時で徴収するのが、修繕積立一時金なのです。
修繕積立基金・修繕積立準備金との違いは?
修繕積立一時金と併せてよく用いられるのが「修繕積立基金・修繕積立準備金」という言葉です。修繕積立一時金は大規模修繕工事などの手前で集められる一方、修繕積立基金・修繕積立準備金はマンションの購入時に支払うことになります。
毎月、修繕積立金を支払うことになりますが、その額を抑えるために購入時に修繕積立基金・修繕積立準備金をまとめて支払うことが一般的です。
修繕積立一時金の問題
毎月、定期的に支払っている修繕積立金は、マンションの長期修繕計画に基づいて金額が設定されています。しかし、前述の通り大規模修繕工事の見積もり額が積み立ててきたお金以上になってしまった場合には、修繕積立一時金を回収することになります。
規模のいかんにかかわらず、修繕工事というのはマンションの資産価値や快適で安全な生活を維持するために必要不可欠な存在です。この点について異論を唱える管理組合員はいないでしょうが、修繕積立一時金を回収するとなると反対される可能性もあるものです。
本項では、修繕積立一時金に伴う問題を解説していきます。
修繕積立金の見直しが必要である
根本的な問題として、修繕積立一時金の回収が必要であるということは、修繕積立金が適切な額として設定されていないということになります。長期修繕計画に基づいて決められたとは言え、マンションの実態は修繕工事前の診断を受けてからしかわかりません。できる限り、その段階で過不足がないように修繕積立金を集めておきたいものです。
ちなみに、国土交通省が発表した「平成 30 年度マンション総合調査結果からみたマンション居住と管理の現状」では、年々修繕積立金の平均額が上昇していることが分かっています。
修繕積立金の積立方式には、毎月同じ額の積立金を回収する「均等積立方式」と、段階的に回収額が多くなる「段階増額積立方式」があります。どちらの方式にも利点・欠点はありますが、大規模修繕工事は回を重ねるごとに修繕箇所・範囲も増え、費用も嵩むことになるので、一般的には修繕積立金の予測がしやすい均等積立方式が推奨されています。
しかし、マンションの現状にそぐわない積立金を継続的に集めていては、一時金を回収する必要性が出てきます。このため、新築時代から修繕積立金を据え置きにしているマンションは修繕積立金の見直しが必要です。
不足したままでは工事が進まない
大規模修繕工事に際して修繕積立一時金の回収が必要となったとしても、管理組合の合意形成と実際の回収には時間がかかります。場合によっては、1戸あたり何十万円もの一時金を回収しなければいけないこともあり、合意に至ったとしても「すぐには払えない」という組合員がいる可能性もあるのです。
前述の国土交通省の資料によると、管理費等の滞納が発生しているマンションの割合は平成30年度で24.6%だといいます。つまり4棟に1棟は滞納している家庭があるということです。このように考えると、毎月の支払いだけでなく一時金まできっちりと回収することが困難であるということがわかるでしょう。
場合によっては修繕費用のための融資が必要
前述の通り、全家庭から修繕積立一時金の回収ができなかった場合には、金融機関などから融資を受ける必要が出てきます。例えば、住宅金融支援機構の「マンション共用部分リフォーム融資」などが検討先として挙げられます。
融資額にかかる金利や融資までの手続き、返済などの手間を考えると、やはり修繕積立金を適切に回収することがベストだと言えます。
また、大規模修繕工事が無事に終わった後も、マンション側は融資金利と返済額をあわせて返し続けなければなりません。利息分の支出は、これまでの予算には組み込まれていなかった出費です。このため、結果として修繕積立金の額がさらに増えることにも繋がりかねません。
さらに、修繕積立金の増加理由が「一部の家庭が一時金を支払わなかったことで融資を受けた」ということになれば、修繕積立一時金をきちんと支払った組合員からの不満も出てくるでしょう。
修繕積立一時金の問題への対策
ここまで解説してきた通り、修繕積立一時金には合意形成や回収への手前などがあり、回収できなかった時には融資を受けることのリスクなどが伴います。当然ですが、可能な限り一時金を回収するような状況にはしたくありません。
そこで、本記事の最後に修繕積立一時金の問題への対策を解説していきます。
均等積立方式を導入する
前述の通り、修繕積立金の方式には均等積立方式と段階増額積立方式があります。段階増額積立方式を採用しているマンションの多くは、新築時のランニングコストを安価に見せることが目的。しかし、この方式の場合には増額が計画通りにいかない等、予測外のことが起こりうるのです。その結果、修繕積立一時金を回収しなければならないこともあります。
国土交通省としては、均等積立方式を採用して修繕積立金を計画的に回収することで突発的な値上げや徴収金の発生を避けることを推奨しています。
できるだけ修繕積立金を計画通りに集められるようにし、一時金を当てにしないような体制作りが大切です。
5年ごとに長期修繕計画を見直す
修繕積立金は、長期修繕計画を元に算出されています。長期修繕計画は30年スパンでマンションの修繕計画を立てたものですが、5年ごとに調査・診断を行って見直す必要があるとされています。なぜなら、長期修繕計画には以下のような不確実性が反映されていないからです。
- 建物及び設備の劣化の状況
- 社会的環境及び生活様式の変化
- 新たな材料、工法等の開発及びそれによる修繕周期、単価等の変動
- 修繕積立金の運用益、借入金の金利、物価、工事費価格、消費税率等の変動
これらの不確実性を反映させた上で5年ごとに計画も更新し、必要に応じて修繕積立金も変更していきましょう。
長期修繕計画がないマンションもある
国土交通省の資料である「平成 30 年度マンション総合調査結果からみたマンション居住と管理の現状」によると、長期修繕計画を作成していない管理組合の割合は全体の7%を占めるそうです。
もし、ご自身のマンションが長期修繕計画を作成していないという場合、修繕積立金の設定に十分な根拠がない上に、無計画な積み立て計画になっていることで一時金のリスクが高まっています。
マンションの資産価値や快適で安全な生活を維持するために、管理組合として長期修繕計画を作成するように働きかけることをおすすめします。
工事内容を見直す
大規模修繕工事の見積もり額が修繕積立金以上の額になってしまったとしても、焦って一時金の回収を考えなくても大丈夫です。まずは、見積もり額の根拠となる工事内容をしっかりと見直していきましょう。
中には優先順位が低く次回の修繕に回して良いものや、マンションの現状に合っていない不必要な工事が組み込まれていることもあります。
こういった不要な工事内容を削減することで、修繕積立金の範囲に収まる可能性は十分にあります。管理会社や施工業者、コンサルティング会社などに相談しながら決めていきましょう。
管理会社にかかる費用を見直す
また、大規模修繕工事だけでなく、日々かかっている管理会社への業務委託費などを削減していくことも検討しましょう。ほとんどの場合、新築時に建築会社の関連会社・系列会社がそのまま管理会社となっています。しかし、このような状況では業務委託費が「言い値」になり、相場よりも高いこともあるのです。
管理会社を見直すことで、同等の業務をより安価に請け負ってくれる会社を見つけることもできるでしょう。年間数百万円から管理費を削減できるケースも少なくないので、修繕積立一時金が必要となる前に業者の見直しも行ってください。
大規模修繕の一時金リスクを理解して計画的な運営を!
本記事では、大規模修繕工事における修繕積立一時金の問題と対策について解説を進めてきました。普段から修繕積立金を支払ってきたのにもかかわらず、一時金を支払うというのは心証があまり良くありません。工事に向けた合意形成も難解にしてしまいます。
長期修繕計画を見直し、修繕積立金を適切に設定すること。そして、大規模修繕工事をきちんと行い、住民の快適な暮らしと資産価値の維持をしていくことが大切です。
計画的なマンション運営についてご不明点がありましたら、ぜひご相談ください。
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