こんにちは、MRCの平松です。
マンションの大規模修繕工事を行う際、責任施工方式・設計監理方式・CM(コンストラクション・マネジメント)方式という3つの発注方式があることをご存知でしょうか。
各方式にはメリット・デメリットがあり、諸条件に応じて最適なものを選ぶことで管理組合全員が納得感を持って大規模修繕工事というビッグイベントを成功させることができます。
一方「費用が安いから」「任せるのが楽だから」等、一面的な利点のみで発注方式を決めてしまうと、思っても見なかったトラブルが発生することも。
マンション大規模修繕工事、長期修繕計画、セカンドオピニオンに関するご相談はこちらまでお問い合わせ下さい。
責任施工方式とは
責任施工方式とは、建築士の所属する施工業者1社に調査診断・改修設計・資金計画〜工事の実施までを一任する方式です。この方式で大規模修繕工事を行うメリット・デメリットについて見ていきましょう。
責任施工方式のメリット
それでは責任施工方式のメリットを見ていきましょう。
全工程を1社に任せることができる
先述の通り、責任施工方式の場合はマンションの調査診断や見積もり、施工から竣工まで全ての工程を施工業者1社に任せることができます。このため、修繕委員会・理事会の立場からすると、発注・打ち合わせなどの手続きが簡素化し、大規模修繕工事の手間がかかりにくいです。
コンサルタント費用の削減
次の見出しで説明する設計監理方式の場合、建築会社などにコンサルティングを依頼するため費用がかかります。しかし、責任施工方式の場合はコンサルタント費用がかかりませんので、施工に関わる費用のみを予算とすれば良いわけです。
工期が短くなる
1社で大規模修繕工事を行う責任施工方式は、施工業者からしても他社との連携が不要なため、竣工までの進行が円滑です。このため、責任施工方式の大規模修繕工事は他の発注方式と比べると工期が短くなる傾向にあります。
責任施工方式のデメリット
費用の削減や工期の短縮など責任施工方式には魅力的な点がありますが、一方でデメリットも存在します。本項では、この発注方式を選択する際に注意しなければならない点を解説していきます。
価格が割高になる可能性もある
前述の通り、責任施工方式は施工業者に大規模修繕工事を一任することになるため、費用に関しても基本的には業者任せになってしまいます。もちろん修繕委員会や理事会の中に修繕工事に関して詳しい人がいれば、過剰な工事や工賃の嵩増しなどに気づくことができる場合もありますが、それは稀なケースです。
国土交通省においても「設計と施工が一体化するため、工事内容と費用内訳の関係が不明瞭となりやす」い、「この方式を採用する場合は、検討結果の適切な情報開示や検討内容ごとの費用内訳の提示等を受けることが重要」(注1)と指摘しており、この点は注意が必要です。
注1:第1章 マンション管理の基本と改修による再生の重要性 – 国土交通省
管理会社と施工業者の癒着問題
責任施工方式では、管理会社が修繕委員会・理事会に対して特定の施工会社を指定されるケースもあります。施工業者の選定は見積の比較やコンペティションなど手間がかかるため、推奨された業者に決めがちです。
しかし、管理会社・施工業者が癒着している場合があり、管理会社がバックマージンを受け取るために工事費用が割高となる問題が生じています。このようなリスクを避けるため、信頼のできる施工業者を選定する必要があります。
手抜き工事・過剰工事になる
施工業者1社に依頼した場合、現場を監督する工事監理者も同社の社員となるため、工事が手抜きになったり、反対に不要な箇所まで工事が行われて工賃を嵩増しされる可能性があります。
国土交通省においても「技術的知識が施工会社のみに偏るため、正しい判断で必要な工事内容を定めるという点で問題となる場合があります。」(注2)と指摘しており、責任施工方式において工事内容のトラブルが生じていることが伺えます。
注2:第1章 マンション管理の基本と改修による再生の重要性 – 国土交通省
設計監理方式とは
設計監理方式とは、施工業者とは別に建築会社を選定し、管理組合の合意形成や調査診断から竣工までの過程にコンサルティングをしてもらうという発注方式です。
設計監理方式のメリット
責任施工方式とは異なる発注方式の設計監理方式。この方式のメリットを見ていきましょう。
設計・工事の品質が担保される
設計監理方式最大のメリットは、設計や工事の品質が両社(コンサルタント・施工業者)によって担保されるということです。それぞれの仕事に対して2社がダブルチェックを行うことにより、手抜き・過剰な工事などの余地がなくなるからです。
修繕費が抑えられる
設計監理方式はコンサルタント費用が余分にかかるものの、大規模修繕工事全体の費用が他の発注方式よりも低くなることがあります。その理由は、コンサルタント会社が複数の施工業者を選定することで競争原理が働き、見積もり価格が下がる傾向にあるからです。
また、コンサルタント会社が見積もり確認を行うため、不要な工事箇所を指摘するなど、工賃の嵩増しがなくなります。
管理組合の意図通りに工事が行われる
また、コンサルタント会社が管理組合の意見吸い上げ〜施工業者との工事内容決定を行うため、管理組合の意図が工事に反映されやすいです。
責任施工方式の場合は施工業者が紋切り型に進める場合があり、意図通りの大規模修繕工事が行われないケースも見られます。こういったリスクを避ける上で設計監理方式は有効です。
設計監理方式のデメリット
大規模修繕工事を行う上で管理組合としては安心感のある設計監理方式ですが、デメリットも存在します。本項では、設計監理方式で発注する際の注意点を見ていきましょう。
コンサルタント費が別途かかる
コンサルタント費がかかるのは、設計監理方式の特徴です。施工業者の他に第三者の企業を参入させるため、これは避けられないコストと考えなければなりません。
不適切コンサルタントのリスクがある
不適切コンサルタントとは、施工業者と癒着してバックマージンを得るコンサルタント会社を指します。
コンサルタント費が安価なため依頼してしまうものの、選定する施工業者が高額な費用を請求してきます。また、コンサルタント会社が機能を果たさないことも多く、設計監理方式のメリットを享受することもできません。
不適切コンサルタントについては国土交通省も問題視しており、平成30年には実態調査が行われました(注3)。これほどの社会問題になっていることを知り、信頼の足る会社にコンサルティングを依頼する必要があります。
注3:マンション大規模修繕工事に関する実態調査を初めて実施 ~工事を発注しようとする管理組合等が適正な見積りかどうか検討する際の指標となります~ – 国土交通省
CM(コンストラクション・マネジメント)方式とは
CM(コンストラクション・マネジメント)方式とは、コンストラクションマネージャーが設計者・発注者・施工業者とプロジェクトをまとめて管理運営する発注方式です。
近年は技術革新の影響で機能分散・職能分化が進んでいるため、施工業者や発注者、設計者が分かれて動くよりも、1社(マネージャー)がプロジェクト全体を管理する方が効率的です。このような背景があり、特にアメリカではCM方式を採用するマンション管理者が増えています。
CM(コンストラクション・マネジメント)方式のメリット
それではCM(コンストラクション・マネジメント)方式のメリットについて見ていきましょう。
工期の遅延がなくなる
CM方式の場合は、プロジェクト全体(大規模修繕工事の企画・設計・施工)のスケジュールを1社がまとめて行うため、タスク管理が厳格になり工期の遅延がなくなる傾向にあります。
工賃の透明化が担保される
設計監理方式のメリットでもありますが、マネージャー側が大規模修繕工事の透明性を担保するため、工賃の嵩増しなどが行われにくいです。
国土交通省においても「発注者が施工者に工事費を支払う過程にCMR(著者追記:マネージャー)が介在し、施工者がコストに関する情報を管理組合にとって分かりやすく開示することができるため、工事費の構成を透明化することが期待でき」る(注4)と述べられており、この点はCM方式のメリットと言えます。
CM(コンストラクション・マネジメント)方式のデメリット
次にCM方式のデメリットを見ていきましょう。
総工費が変動する可能性がある
CM方式では複数の業者を一つのプロジェクトに内在させるため、工事ごとに個々の施工業者へ工事費の精算を行わなければなりません。このため、最終的な総工事費が変動する可能性があるのです。
マネージャーの力量で工事の質が左右しやすい
CM方式ではコンストラクションマネージャーが管理組合(発注者)から業務委託を受ける形になるので、マネジメント能力によって修繕の仕上がりの質が左右されやすいです。この点は設計監理方式も同様ですが、複数の施工業者が介在する分、管理が複雑になるのです。
別途マネジメントフィーがかかる
CM方式ではコンストラクションマネージャーに業務を委託するため、その分の費用が工賃の他にかかってきます。ただし、責任施工方式と比べると工賃が透明性を担保されているため、意図的な嵩増しなどは行われにくいです。
発注方式比較表
責任施工方式 | 設計監理方式 | CM方式 | |
---|---|---|---|
メリット |
|
|
|
デメリット |
|
|
|
まとめ
本記事では、責任施工方式・設計監理方式・CM方式の特徴やメリット・デメリットを図解し、どの発注方式がご自身の建物に合っているのか明確にできるように解説をしていきました。
それぞれの方式の特徴を知り、ご自身のマンションに最適なものを選択いただければ幸いです。また、設計監理方式に関するご相談は当社までお気軽にお問い合わせください。
コメント