マンションの大規模修繕工事は、その名前の通り大規模な工事を要することになるため、マンション内外ともにトラブルが発生する可能性は否めません。トラブルは人的なものから、金銭トラブルまで幅広く、対策をしっかりと行わなければ住民から修繕委員会・理事会へ責任問題を問われることもあるのです。
そこで、マンションの大規模修繕工事の前後や実施中に発生しうるトラブルにはどのようなものがあるのか把握しましょう。そうすることで、問題が生じる前に対策を練ることができます。
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計画段階|マンション大規模修繕工事のトラブル
現在進行形で、マンション大規模修繕工事の準備・計画を行っているという修繕委員会・理事会の皆様のいらっしゃるでしょう。
こちらの見出しでは、修繕工事を計画する段階で起こりうるトラブルについてまとめていきます。
管理組合で合意形成ができない
マンションの大規模修繕工事では修繕委員会などが発足され、修繕を進めていくことになります。しかし、委員会で全てを決めていいというわけではなく、当然ながら住民でもある管理組合の皆様の理解を得て計画を作成・実行していかなければなりません。
管理組合内の意見をまとめあげ、修繕工事に対して賛同を得るプロセスを合意形成と呼びますが、この合意形成が計画段階でうまくいかないという問題が起こりえます。
特に大規模修繕工事には多額の工事費用を要しますので、管理組合の意思を汲まないような計画は反対に遭いやすいです。計画作成においては、委員会内の意思決定に対して透明性・公平性を保つことが重要だと言えます。
この透明性・公平性を保つ手段の1つが、こまめな広報活動です。修繕委員会で行われた決定事項・検討事項などを分かりやすく伝えることによって、管理組合側の理解を得ることができるでしょう。
修繕積立金が足りない
マンションの大規模修繕工事に向けて、平常時から修繕積立金を住民全体から徴収しているでしょう。この修繕積立金の徴収額は、修繕等の計画の根拠ともなる「長期修繕計画」に基づいています。
長期修繕計画では30年間の計画が立てられ、必要となる予算や工事のタイミングなどが記載されますが、あくまでも計画ではあるため、建物の実態によっては計画していた以上の工事が必要となることもあるのです。例えば、法律の改正により改装が必要になったり、エレベーターの設置など、利便性を高めるための工事を行ったりする可能性も考えられます。
このように当初予定していなかった工事が必要になると、修繕積立金以上の工事費用が必要です。修繕積立金が不足すると管理組合に対して臨時徴収金の依頼を出すことになり、理解を得られるのに時間がかかるでしょう。
修繕積立金の不足に対して取れる対策としては、以下のものが挙げられます。
- 工事内容を見直す
- 臨時徴収金を収集する
- 次回の修繕工事に回せる箇所は先送りにする
- 工事時期を遅らせ、修繕積立金の充足を待つ
- 融資制度を利用する
- 補助金・助成金制度を利用する
お住まいの地方自治体で基準を満たす補助金・助成金制度があるならば、申請することも視野に入れると良いでしょう。
また工事内容を改めて検討し、修繕の優先度合いが低い箇所に関しては、時期を遅らせるなども対策として取ることができます。ただし、専門家でもない限り独断で優先度合いを検討することは危険です。施工業者やコンサルティング会社と共に、修繕積立金の範囲内で修繕工事が実施できるように考えていきましょう。
場合によっては、臨時徴収金や融資などで修繕積立金を充足する手段もあります。ただし、管理組合への経済的な負担や返済のことを考えると、できるだけ避けるべきです。
また、積立金の不足は長期修繕計画の見誤りから発生していることを考えると、根本的な問題解決として計画書の見直しを進めることをおすすめします。
着工後|マンション大規模修繕工事のトラブル
大規模修繕工事の内容が決まり、無事に着工したとしても油断はできません。なぜなら、マンションの大規模修繕工事においては、工事期間中のトラブル発生が最も多いからです。
大規模な施工はマンション内外ともに生活環境へ影響を及ぼします。このため、施工業者・修繕委員会は最大限の配慮をしながら対策を行っていきたいものです。
本稿では、マンション大規模修繕着工後のトラブルとその対策について解説をしていきます。
騒音・悪臭問題
マンションの大規模修繕工事中に最も生じる問題は騒音です。足場の組み立てや補修作業による機械音、振動などは住民はもちろんのこと、周辺地域にまで響き渡ることもあります。また、日中に限定して工事は進められることになりますが、日中に家で生活をする方もいますし、そういった方への配慮も欠かせません。
そして、外壁塗装などの工事期間には塗料の臭いが発生します。こういった悪臭が生活の質の低下をもたらすことも考えると、居住者・地域住民からの理解は絶対に必要です。他にも細かい点ではありますが、粉塵が発生する工事期間はバルコニーに洗濯物を干すことができなくなる等、住民の生活への影響が大きいのが大規模修繕工事です。
修繕工事によって生活がどのように変わるのかは、住民・地域にとって大きな関心ごとです。着工前の説明会や工事期間中の定期的な広報活動で理解が得られるように丁寧な説明を心がけましょう。
地域への影響
先ほども軽く触れましたが、大規模修繕工事は地域への影響が大きいです。管理組合側は住民でもあるため、ある程度の影響に関しては理解してもらうことができるでしょう。
一方、地域住民からすると単純に「迷惑」と捉えられることも少なくありません。騒音や悪臭、粉塵の飛来が考えられるほか、頻繁に工事車両が通行するなどを考えると、これらについて本格的に工事が始まる前に理解を得ておく必要があるのです。
地域からの苦情発生を最小化し、理解を促すためには、影響を及ぼすであろう地域に対して修繕委員会と施工業者・管理会社などで挨拶回りをする、工事期間や内容、影響が記載されたチラシを投函する等が考えられます。
こうした対策を行ったところで影響を与える事実に変わりはありません。しかし、事前に挨拶があったかどうかが、地域住民へ与える印象を左右します。大規模修繕工事後もマンション住民はその地域で生活を続けるため、円満に工事を終えられるようにできる限りの対策はしましょう。
空き巣・盗難被害
大規模修繕工事では多くの業者がマンション内を出入りしますので、普段合わない人が建物内を往来していても住民側は不審に思いづらいです。また、足場が組まれることによってバルコニーへの侵入が容易になります。こういった状況から、大規模修繕工事の期間中に空き巣や盗難被害が生じやすくなっているのです。
基本的な防犯対策としては、施工業者などには住民が識別できるように腕章・ベストなどを着用してもらうことです。これによって工事関係者かどうかを見分けることができるようになります。また、足場の入り口の施錠を徹底してもらうなど、外部からの侵入を防ぐことも施工業者に伝えておきましょう。
修繕委員会から住民側に防犯対策を各自徹底するように伝えることも重要です。施錠や補助鍵の設置などは最低限行ってもらうようにお知らせをしましょう。共用部に監視カメラや人感センサー付きライトなどの防犯グッズを設置することも有効です。
大規模修繕工事における空き巣・盗難被害は多発しているため、施工会社・コンサルティング会社と相談をしながら適切な対策を実施できるようにしていきましょう。
立ち入り禁止区域への侵入
工事期間中、一般人が立ち入ってはいけないエリアを中心に機材・資材・ペンキなど、修繕に使用する物品が置かれることになります。こういったエリアに誤って立ち入ってしまったことによって住民側が怪我をしてしまうなど、事故の発生も考えておかなければなりません。
基本的な対策として、立ち入り禁止区域にはカラーコーンやテープ、看板などを設置して注意を促すといったことが挙げられます。しかし、好奇心の強いお子様にはこのような注意喚起が十分に伝わらず、立ち入ってしまう可能性も考えられるでしょう。
このため、お子様がいる世帯が多いマンションでは、施工会社と共同で工事現場の説明会などが開かれるケースもあります。親御様とともに工事現場を見学し、入ってはいけない箇所、危険な箇所などを学ぶことで、不慮の事故を未然に防ぐことが可能です。
また、各家庭に対して立ち入り禁止区域への侵入をしないように注意喚起をするとともに、工事箇所を随時伝えるようにしていきましょう。
計画にはなかった工事の追加
大規模修繕工事の前には全面打診が行われ、その調査をもって工事内容が決定されていきますが、時には工事が始まってから修繕が必要だと判断される箇所もあります。追加で工事が必要となった場合には工事費用が増加することもあり、修繕積立金の範囲を超える場合もあるのです。
こうしたトラブルも、基本的な対策は修繕積立金の不足時と同様です。
- 工事内容を見直す
- 臨時徴収金を収集する
- 次回の修繕工事に回せる箇所は先送りにする
- 工事時期を遅らせ、修繕積立金の充足を待つ
- 融資制度を利用する
- 補助金・助成金制度を利用する
まずは、計画後に追加工事が必要とならないように、できる限り正確な調査と見積もりをしてもらうことが大切です。その上で、追加工事が生じても対応できるように修繕積立金を平時から集めておくこと、その都度適切に対策を取ることが求められます。
施工後|マンション大規模修繕工事のトラブル
無事にマンションの大規模修繕工事が完了したとしても、まだ油断はできません。なぜなら竣工後にもトラブルが発生しているケースが少なくないからです。
本見出しでは、修繕工事が完了した後に考えうるトラブルと、それに対する適切な対策についてお伝えをしていきます。
修繕の仕上がりが想像していたものと異なる
大規模修繕工事では使用する素材や塗料なども事前に打ち合わせをすることになりますが、実際に仕上がった段階で修繕委員会が想定していた仕上がりと異なるという自体が起こりえます。
作業員の技術によって仕上がりが異なってしまうということもありますが、意外に多いのが、事前に見せてもらったサンプルを室内でしか確認していなかったということです。屋外の日向・日陰などで見るのと、蛍光灯の下で見るのとでは色合いなど受ける印象が変わる可能性があります。
このような事態を避けるためにも、本格的に着工する前に試験施工を行うなど、修繕箇所に対して部分的に施工を行ってもらうことがおすすめです。試験施工を行う分、費用・期間ともに増えることにはなりますが、大規模修繕工事を納得のいく形で終わらせるためにも着実に進めましょう。
不適切な施工による再修繕
時には大規模修繕工事後に、再修繕が必要となるケースもあります。特に多い原因が、補修作業が適切に実行されていないということです。仕上がりがいかに綺麗でも、適切に補修が行わなければ意味がありません。次回の大規模修繕工事が12〜15年後であることを考えると、確実に計画された補修箇所は修繕する必要があります。
このような場合は施工業者のアフターサービスや大規模修繕工事瑕疵保険の活用などを検討しましょう。
また、再修繕が必要となった際の施工業者の対応もきちんと見ておきましょう。基本的に再修繕は施工業者の責任のため、業者側に金銭的なメリットはありません。だからといって後回しにするのか、最優先で対応してくれるのか。もし誠意のある対応をしてくれるのであれば、今後もパートナーとして任せても良いでしょう。
大規模修繕工事はマンションの資産価値・住民の安全性を守る上で非常に重要な工事です。信頼できる相手に今後も依頼できるように、施工業者の対応を評価しておく必要があります。
居住者|マンション大規模修繕工事のトラブル
ここまで見てきた通り、大規模修繕工事は様々な観点からトラブルを予測し、先回りで対策を打っていくに越したことはありません。そんな中で、意外と見落とされているのが居住者への配慮。修繕を受ける側として理解してもらえると思っていたものの、なかなか協力を得ることができなかったというケースは少なくないのです。
こちらでは、大規模修繕工事において起こり得る居住者トラブルとその対策を説明していきます。
工事に対する理解・協力が得られない
先述の通り、大規模修繕工事を円滑に進めるためには居住者でもある管理組合からの理解・協力が欠かせません。修繕に対して完全な理解を得られていれば修繕積立金の臨時徴収なども容易になり、建物にとって本当に必要な工事を実施できるのです。
一方、大規模修繕工事の必要性や内容、方向性などに対して十分な理解が得られなければ、工事期間中における行動規制に従ってもらえないなど、危険が生じる状況にもなりかねません。
こういった事態は工事の進行を遅らせるだけでなく、住民・施工業者側への安全にも悪影響を及ぼします。そのため、大規模修繕工事の準備段階から説明会で理解を得るなど、合意形成には全力を注ぎたいものです。
また着工後も工事の進捗や注意事項などを共有し、修繕工事について正しく理解してもらえるように努めましょう。
プライバシーの保護
大規模修繕工事の期間中には、作業員が足場を移動したり、バルコニーなどの占有部分に入って作業をしたりなど、住民のプライベート空間に影響を及ぼすことが少なくありません。
作業員にはその気がなくとも、住民が「室内を覗かれた」などと感じてトラブルに発展することも考えられるのです。プライベート空間が他者が見れるようになるという状況は、住民側の心理的不安をあおり、クレームに繋がることは十分にあり得ます。
しかし、修繕工事で占有部への出入りや足場の移動をしないようにするということはできません。このため、住民側にカーテンを閉めるように協力を促すとともに、プライバシー保護の必要がある期間については逐一お知らせをするようにしましょう。
マンションの大規模修繕工事を円滑に進めるコツ
ここまで大規模修繕工事の準備段階・着工後・竣工後と居住者に関わるトラブル・対策について解説をしてきました。とはいえ大工事になるため、どれだけ準備をしても問題が生じる可能性は否めません。しかし、できるならば問題発生の可能性を最小限にし、トラブルが生じた際にも円滑に工事が進むようにしたいものです。
そこで、本記事の最後にマンションの大規模修繕工事を円滑に進めるコツを紹介します。下記で解説するポイントを守りながら、施工業者・管理組合・コンサルティング会社と協力して進めていきましょう。
修繕計画を立てる際にはトラブル発生も加味する
大規模修繕工事の計画を立てる段階で、起こり得るトラブルと対策についてまとめておくことがおすすめです。修繕計画の時系列に応じてトラブル・対策をまとめておけば、事前に管理組合側に周知をしたり、地域への挨拶の際にも予想される問題を伝えやすくなります。
行き当たりばったりでトラブルを対処していると後手に回り、住民側のクレームにも繋がりかねません。大規模修繕工事に携わる全ての人が安心して工事期間を過ごすことができるように、予測できる問題は予防策を打っていきましょう。
信頼・実績のある会社を選ぶ
これまでの施工実績が豊富な会社ほど、大規模修繕工事におけるトラブル対策が徹底されている傾向にあります。何十件と施工をすることによって、リスク管理や予防策を心得ているからです。
実績のある施工会社に依頼できれば、修繕委員会がトラブルについて気を張らなくても充実した支援とアドバイスを受けることができるでしょう。しかし、そういった素晴らしいパートナーを見つけられないということは往々にしてあり得ます。
そういった場合は、大規模修繕工事を円滑に進める専門家でもあるコンサルティング会社に依頼することも一つの手です。大規模修繕工事においてトラブルをできるだけ避けたいという方はお気軽にご相談ください。
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