こんにちは、MRCの平松です。
大規模修繕工事の適切な周期は、国土交通省の発表する資料によると12〜15年とされています。しかし、近年では15〜18年周期を提唱する会社も存在し、大規模修繕工事の周期については何年間ごとの実施が理想的なのか悩ましいところではあります。
しかし、そもそもの大規模修繕工事の目的が「住民の安全性の担保」「マンションの資産価値の維持」であると考えると、マンション全体の修繕時期を紋切り型に12年とか18年といったように定義することは難しいとも言えます。
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大規模修繕工事の周期は12〜15年
日本のマンションは長期修繕計画に基づき大規模修繕工事が行われるわけですが、多くの場合が12年という周期で設定されているようです。この12年という数字は長期修繕計画を作成する際に慣習的に設定されることが多いですが、その周期の論拠となるのが、国土交通省が発表した「長期修繕計画作成ガイドライン(令和3年9月改訂)」です。
上記資料「5 計画期間の設定」の項目において、国土交通省は「計画期間は、30 年以上で、かつ大規模修繕工事が2回含まれる期間以上とします。」や「外壁の塗装や屋上防水などを行う大規模修繕工事の周期は部材や工事の仕様等により異なりますが、一般的に 12~15 年程度」と記載しています。大規模修繕工事自体はマンションの実態に沿って行われるものであり、点検・調査・診断の結果、必要かどうかを見極める必要があるというのがその理由です。
とは言え、多くの場合は点検・調査・診断の結果、修繕が必要となります。劣化具合によって修理箇所は変わりますが、調査や診断の結果、何も行わないということはほぼないでしょう。このため、大規模修繕工事の実施は12年というのがスタンダードとなっているのです。
大規模修繕工事の周期を伸ばすことは可能?
さて、大規模修繕工事の一般的な周期を知ったところで次に気になるのは「修繕工事の周期を伸ばすことはできるのだろうか?」という点でしょう。
必要がないのに慣習だからといって実施することに正当性や合理性は一切ありませんし、マンションの住民にとっても経済的な面で負担を強いることになりかねません。
当然ながら、必要なのに無理に周期を延伸するのは問題です。このようなやり方は短期的に見て金銭的なメリットがあるかもしれませんが、長期的な視点で見ると資産価値を著しく下げるだけでなく、住民の生活の質の低下や周囲への悪影響を及ぼしかねません。(外壁の崩落など)
しかし、近年では12年から18年まで大規模修繕工事の周期を伸ばす取り組みを株式会社東急コミュニティーが行っているように、古い常識をアップデートしようとする動きも見えてきました。
本項では、大規模修繕工事の周期を伸ばす方法や基本的な考え方、延伸という話が出てきた背景について説明をします。
株式会社東急コミュニティーが18年に延長した背景
マンションの管理組合にとっては、リスクなく大規模修繕工事の周期が延伸できるのであればこれ以上に嬉しいことはないでしょう。建物ごとに修繕積立金を設けてはいますが、場合によっては臨時徴収の必要があるなど、資金繰りに苦労されているところも多いと聞いています。
そんな中で、株式会社東急コミュニティーが18年に延長した背景には、大規模改修工事で用いる仕様・工法等の工夫により防水、塗装 など建物の外装の物質的な寿命を伸ばすことができたという点が挙げられます。
同社では、マンションの建て替えが必要となってくる時期を築60年と捉え、12年周期の場合は最大5回必要だったところを、18年周期で最大4回に減少させることができると提案しています。
近年では一軒家ではなくマンションを、人生における最後の住処(終の棲家)として捉える方も少なくありません。このため、長期視点で大規模修繕工事の周期が伸びることは金銭的にも大きなメリットであると言えます。
今後も工法の改善により大規模修繕工事の周期延伸を図る取り組みは行われていくでしょう。
こまめに小規模・中規模修繕を行う
とは言え、全てのマンションがすぐに新工法を導入することは現実的に難しいでしょう。依頼する施工業者がその工法に対応してくれるには、技術的なハードルをクリアする必要があるからです。また、基本的には従来のやり方で施工が実施されるはずですし、多大な労力をかけて新工法を導入するメリットは施工業者からすると少ないとも言えます。
そこで、中期的な方法として大規模修繕工事の周期を伸ばす方法について2点をお伝えします。まずは、小規模・中規模修繕をこまめに行うということです。
大規模修繕工事の周期をうまく伸ばせているマンションは、定期的に検診を実施した上で必要な箇所へ修繕を実施していることが多いのです。
特に雨や日光に晒される箇所、水回りは劣化の進行度合いが早い上に、放置しているとマンションの根幹部分にも損傷を与えかねません。こういった箇所をきちんと改修しているからこそ、確実に周期を伸ばせているのです。
高耐久性素材の使用
同時に、修繕工事の度に使用する素材については見直しをすることをおすすめします。白熱灯をLED電球に変更するのと同じように、その時点で最もパフォーマンスが期待できる高耐久性素材を採用することによって、部分的な修繕周期を伸ばすことが期待できるからです。
例えば、従来のシーリング材は耐久性に懸念点がありましたが、現在流通している最新製のシーリング材を使用すれば大規模修繕工事の一般的な周期と同程度の使用年数が期待できます。
また、外壁塗料についても従来はウレタン・アクリル製のものが多く使用されていましたが、近年はフッ素・シリコン製の塗料が流通しており、最近ではラジカル塗料など昔とは比べ物にならないほど耐久性に優れている素材が登場しています。
こういった高耐久性の素材は高額になるケースも多いため、長期的に見てコストパフォーマンスが優れているのかどうかも含めて施工業者やコンサルティング業者に相談してみることを推奨します。
大規模修繕工事の費用は周期ごとに変わる
ちなみに、大規模修繕工事の費用は平均して周期ごとに変動が見られることも念頭に入れておくと良いでしょう。下図は国土交通省が発表した大規模修繕工事の費用調査です。
2回目以降で工事内容が変わる可能性もある
周期ごとに費用が変わる要因としては、大規模修繕工事ごとで対象となる箇所が異なることが挙げられます。例えば、1回目〜2回目の工事では外壁や屋上など外面の修繕が行われる一方で、3回目の大規模修繕工事ともなるとマンションの建物内部の劣化が進んでおり、そちらを中心に修繕が行われる可能性が高いです。
また、5回目以降は築60年以上経過していることも多く、延命的に修繕を行っていくのか、立て直しを行うのか等を検討しなければなりません。
概して、大規模修繕工事の回数を重ねる度に修繕範囲は広がっていくことが多いため、修繕費用も平均して上昇していく傾向にあります。
まとめ
本記事では、大規模修繕工事の周期や延伸のコツなどについて解説し、費用に関しても回数を重ねる度に上がっていく可能性があるという点を説明しました。
注意すべきは、管理会社などから提案される大規模修繕工事の周期はマンションの実態を踏まえていない場合もあるという点です。建物によっては、長期修繕計画よりも早い周期で修繕が必要となることもあれば、その逆も然りです。
また、施工会社においても発注を受けたいという意図が働き、修繕工事を行うものとして調査などが行われることも往々にしてあり得ます。
中立的な意見を得るためには、コンサルティング会社などを間に入れることがおすすめです。大規模修繕工事を適切に実施したいという場合は、ご相談ください。
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