長期修繕計画書でよく聞く国土交通省ガイドラインって?専門家が簡単に解説

長期修繕計画や修繕積立金などについて詳細が書かれた「長期修繕計画作成ガイドライン」。国土交通省が平成 20 年6月に作成し、近年では令和3年9月に改訂がなされています。

こちらを参考にしながら、お住まいの大規模修繕工事の計画を進められる管理組合の方もいらっしゃるでしょう。しかし、内容が複雑かつ広範に渡り、専門家でもなければ修繕工事に活用することは難しいです。

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長期修繕計画書の国土交通省ガイドラインについて

長期修繕計画作成ガイドラインとは、国土交通省が発表したマンションの長期修繕計画書の基本的な考え方を示す資料を指します。このガイドラインは、マンションの維持管理に必要不可欠な「長期修繕計画」の作成・改善や修繕積立金の設定などに関して、その方法や基本的な考え方を示しています。

分譲マンションの修繕は十数年スパンで多額の費用を使って行われます。このため、一定の基準がなければ工事ごとに差が生じやすく、その差を一定に保つこと、大規模修繕工事の適切・円滑な実施を目的として、作成されました。

ガイドラインが対象とする建物

長期修繕計画作成ガイドラインが対象とする建物は「区分所有者が自ら居住する住居専用の単棟型のマンション」とされています。

ただし、全国を見渡すとマンションにはそれぞれに特質のある形状や仕様が見られます。このため、修繕工事の対象となる建物ごとにガイドラインの内容に個々で必要事項の追加をすることができるとされています。

国土交通省が定める大規模修繕工事の周期

一般的に大規模修繕工事の周期は12年とされることが多いようです。その根拠となっているのも、国土交通省が定める資料です。

下図をご覧下さい。

こちらは、もともと国土交通省が発表した「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」に掲載されているものですが、長期修繕計画作成ガイドラインにも改めて掲載されています。

この概念図では大規模修繕工事が12〜15年スパンで行われていることが分かります。

また、同ガイドラインにて「​​大規模修繕工事の周期は部材や工事の仕様等により異なりますが、一般的に12~15 年程度」との記載があり、これらの記載から一般論として大規模修繕工事の周期は12年が指されることが多いのです。

反対に言えば、マンションの状況によっては15年周期で行うことも可能であり、近年では18年周期を謳う業者も存在します。そういう意味では、修繕工事の周期は12年と考えず、施工業者やコンサルティング会社と相談して決めることをおすすめします。

国土交通省ガイドラインの内容

次に、国土交通省の長期修繕計画作成ガイドラインにはどのようなことが記載されているのかについて、重要なポイントだけを抜き出して解説をしていきます。

長期修繕計画の作成の基本的な考え方

本ガイドラインの第2章にて、長期修繕計画の作成の基本的な考え方が解説されています。

そもそも長期修繕計画を作成する目的は下記3点です。

  • 将来見込まれる修繕工事及び改修工事の内容、おおよその時期、概算の費用等を明 確にする。
  • 計画修繕工事の実施のために積み立てる修繕積立金の額の根拠を明確にする。
  • 修繕工事及び改修工事に関する長期計画について、あらかじめ合意しておくこと
    で、計画修繕工事の円滑な実施を図る。

長期修繕計画をきちんと作成すれば、修繕工事は滞りなく行われます。それにより、建物の快適な居住環境を確保し、資産価値の維持が実現するのです。

これらを柱にして、長期修繕計画を盤石なものにするための考え方がまとめられています。

長期修繕計画の作成の方法

第2章を受ける形で、長期修繕計画の作成の方法の方法について第3章で簡単に解説がなされています。

具体的には、以下のような項目が記載されています。(下記は項目の一部です。)

  • 長期修繕計画の構成
  • 長期修繕計画標準様式の利用
  • マンションの建物・設備の概要等
  • 計画期間の設定
  • 推定修繕工事費の算定

ただし、記載されている情報は概要のみとなります。

例として、推定修繕工事費の算定を挙げると「建築数量積算基準・同解説(平成 29 年版)((一財)建築 コスト管理システム研究所発行)等に準拠して、長期修繕計画用に算出するように記載されています。

長期修繕計画の作成にあたっては、本ガイドライン以外にも必要な資料を参考にしつつ進めていくというようなイメージです。

修繕積立金の額の設定方法

大規模修繕工事を実施するための財源として修繕積立金が挙げられます。計画的に修繕積立金を集め、滞りなく工事を実施することが重要なので、長期修繕計画作成ガイドラインにも基本的な事項が記載されているのです。

また、工事資金の充当のヒントとして「専用庭・駐車場などの使用料から管理費を差し引いた分を修繕積立金会計に繰り入れ」などのようなことも書かれています。

大規模修繕工事の直前に予算が不足して臨時徴収金を集めるには、住民側の理解を得る必要があります。これは工事を進める上での障害にもなり得ることです。このため、本ガイドラインを参考にしながら大規模修繕工事の資金を計画的に収集する方法を知っておくことが推奨されます。

マンション長期修繕計画ガイドラインの主な改訂事項

長期修繕計画作成ガイドラインは建築技術の進歩や修繕工事の実態に応じてこれまでも度々改訂されてきましたが、直近での改訂は令和3年になされました。この改訂では、主に3つの点に焦点が向けられます。

マンションの長期修繕計画期間の統一

以前のガイドラインにおいては、既存マンションの長期修繕計画期間は25年、新築マンションは30年と記載されていました。しかし、令和3年版の改訂をもって、既存マンション・新築マンションのどちらも長期修繕計画期間は30年と変更されています。

  • (改定前)計画期間は、新築マンションの場合は、30年以上とし、既存マンションの 場合は、25年以上とします。
  • (改訂後)計画期間は、30年以上で、かつ大規模修繕工事が2回含まれる期間 以上とします。

修繕周期の目安に一定の幅を持たせた

長期修繕計画作成ガイドラインにはマンションの部位ごとに修繕時期の目安が記載されていますが、もともとは「〇年」と特定の年数が1つ指定されていたのに対して、「〇年〜〇年」といったように令和3年版では幅が持たされるようになりました。

以下は改訂の一例です。

  • (改定前)外壁の塗装塗り替え:12年
  • (改訂後)外壁の塗装塗り替え:12〜15年

省エネ性能を向上させる改修工事の有効性を記載

壁や屋上の外断熱改修工事や窓の断熱改修工事等、マンションの省エネ性能を向上させる改修工事の有効性が追記されました。この変更は、近年の社会的な要請を踏まえたものであり、今後も省エネ指向の記載が増える可能性があります。

それに併せ、エレベーターの点検にあたり、国土交通省がH28年2月に策定した『昇降機の適切な維持管理に関する指針』に沿って定期的に点検を行うことの重要性についても追記がなされました。

修繕積立金ガイドラインの主な改訂事項

併せて、令和3年に同じくして改訂された「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」についても変更点を見ていきましょう。

目安とする修繕積立金のm²単価を更新

今回の改定では、適切な長期修繕計画に基づく修繕積立金の事例を踏まえた上で、修繕積立金のm²単価の更新が行われました。

従来の修繕積立金のm²単価は必ずしも適切でないということを国土交通省が認めたということであり、それに伴い、適切な単価が設定されたということになります。

修繕積立金額の目安に係る計算式を見直し

従来の修繕積立金額の目安に係る計算式には、既存マンションが含まれていませんでした。

このため、既存マンションが長期修繕計画を見直すことも想定し、すでに積み立てられた修繕積立金残高も含めて修繕積立金の目安額を算出する計算式が作られました。

具体的な計算式は下図をご覧下さい。

まとめ

本記事では、大規模修繕工事で用いられる国土交通省のガイドラインの概要を解説しました。管理会社や施工業者に全てを任せる前に、一度ガイドラインを読み解き、適切に計画がなされているのかを一考することも重要です。

もし長期修繕計画など、大規模修繕工事において懸念があるのであればにご相談ください。

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